ストップ、老後破産!のために知っておきたい現状と対策

30代後半で定年後にローンが残る組み方をした人が破綻している

2年前、警鐘を鳴らすつもりで老後破産の本を出そうとしたという高橋さん。その時点では危機が認識されておらず、住宅ローンの借り方の本になってしまったそうだ。今、満を持して老後破産の事例、対策についての本を執筆中とのこと

2014年9月以降、老後破産なる言葉が話題になっている。仕事人生を無事に終え、安泰な老後を過ごすはずだった人たちの歯車がどこかで狂い、経済的に追い込まれていく姿はテレビ、雑誌などで何度も取り上げられていたから、ご覧になった方も多いだろう。破綻の原因は人それぞれだが、そのうちにのいくつかに共通するのが住宅である。多額でかつ長期に続くものだけに住宅ローンの組み方、家の買い方には注意が必要。ここでは長年、任意売却(*)に携わり、住宅ローン破綻を見てきた高橋愛子さんに最近の実態をお伺いした。

「住宅ローン破綻自体はいつの時代にもありますが、最近、目立っているのは平成6~7年から10年にかけて買った、現在50代から60代以上の方々の破綻です。すでにバブルは崩壊している時期ですが、まだまだ右肩上がりの夢が残っており、また、住宅価格が下がり、バブルの時には買えなかった住宅が今なら買える、今、買わなかったらまた、買えなくなると煽られた時代。そこでちょっと遅めに組んだ人、不相応に多額のローンを組んだ人などが破綻しています」。

30歳でローンを借りれば35年ローンとしても完済時は65歳。ところが、この時期以降35歳以上、40代などになってから住宅購入、ローンを組むケースが増えているのだという。晩婚化の影響である。住宅を買うきっかけとしてもっとも多いのは子どもの誕生だが、結婚が遅くなると第一子誕生もそれに連れて遅くなり、住宅購入もという流れなのだ。住宅ローン自体は金融機関にもよるが、79歳まで組める場合が多く、40代、50代でも30年、35年で組めないことはない。だが、そうした組み方をすると多少繰上げ返済をしても定年後に住宅ローンが残る可能性が高くなる。年金生活なのにボーナス払いあり、80歳まで返済が続くなど、どう考えても無理な返済になってしまうのである。

ローンだけはなんとか支払い続けてきたものの、それで手一杯で貯金ゼロで高齢になってしまうケースもある。「72歳で2000万円以上のローンが残っている方のご相談を受けたことがあります。途中で滞納があったため、団信も切れており、亡くなられてもローンが残るという状態で、貯金はゼロ。返済のためにタクシーの運転手をしていらっしゃいましたが、もし、倒れでもしたら全てが破綻という状況。最終的には任意売却をし、毎月5000円の返済で済むことになりましたが、人生の終盤に至るまで返済に追われる人生は辛かっただろうと思います」。

(*)任意売却
住宅ローンが払えなくなった場合、債権者(主に金融機関)が民事執行法に基づき、債権回収のために裁判所に申し立てを行い、該当不動産を裁判所が売却する手続きを競売(けいばい)というが、競売になってしまう前に融資を受けた金融機関との合意に基づいて、家を売却する手続きを任意売却という。

難あり物件を高額で買ってしまい、破綻というケースも

年金、退職金があてにならない時代、住宅ローンだけでも安全に返せるように考えておきたいもの年金、退職金があてにならない時代、住宅ローンだけでも安全に返せるように考えておきたいもの

バブルは崩壊していたとはいえ、住宅不足の時代が長かったことから、今見ると難のある物件にも飛びついてしまい、それがために多額の借金を抱えた人もいる。「平成7年、50歳ちょっとまえに茨城県内に3680万円で建売一戸建てを購入、返済に困ってご相談にいらっしゃった方がいらっしゃいました。駅から遠い上に旗竿地(公道から細長い私道を経た先に敷地がある)で建物面積は80m2ほど。ところが現在の査定価格はわずか680万円。売却しても残債が残るのです。どうしてこんな物件を買ったのですか、他にももっといい物件があったでしょうにと聞いたのですが、当時は買わなきゃ損、これを買わなかったら二度と買えないと思ったのだとか。このケースでは任意売却になったものの、同居していた息子さんが購入、無事に住み続けることができましたが、今が買い時、今、買わなきゃもう買えないという言葉を無条件に信じるのは危険ですね」。

家を買おうと思う人はたいていの場合、その気になったところで情報収集を始める。そこで今が買い時と言われるとそんなものかと思いがちだが、私が住宅関係の原稿を書き始めて30余年。住宅が買い時で無かった時期はない。価格が妥当であるかどうかはもちろん、今が自分にとっての買い時かどうかは慎重に考えるべきだろう。

貸してくれるから借りるのは危険。熟年離婚も破綻の引き金

熟年に至っての離婚でなくとも、ローンを抱えての離婚は破綻の危険があるという熟年に至っての離婚でなくとも、ローンを抱えての離婚は破綻の危険があるという

また、高橋さんから見るとどうしてここまで借りてしまったのかという例もあるという。「妻が不安定なパート勤務であるにも関わらず、目一杯夫婦で収入合算をしていて夫の収入は全額ローン返済、月5~6万円のパート収入で暮らしていたり、購入時の物件評価額が異常と思えるほど高く、物件を売却しても多額のローンが残るケースなど、貸す側の良識を疑うケースもあるほど。銀行が貸してくれるからといっても、返せなくなるような額を借りてはいけませんね」。

たいていの場合、銀行はお金を貸すこと、不動産会社は住宅を売ることが仕事であり、ローンを返済し続けられるかどうかは彼らの問題ではない。売る人、貸す人たちの「買えますよ」という言葉には責任は伴わないのだと考えておこう。

もうひとつ、破綻のきっかけになりやすいのが離婚。熟年離婚の増加に伴い、それまではなんとか払い続けてきたものの、離婚を機に財産を分割することになったり、慰謝料を支払うことになるなど、想定していなかった支出が生じ、それが破綻の引き金になることがあるのだ。「熟年離婚では、妻は長年お金や別れる理由の客観的証拠などを準備してきていることが多く、夫側が何とかしようと思っても無駄なケースが大半。最近は65歳で完全にリタイアした時点で切り出されるケースが多く、男性は妻、家族、家、お金を失うことに。新たにやり直そうと思える年でもなく、そのまま、精神的にも立ち直れなくなる男性が少なくありません」。家を買った後、ローンを組んだ後でローンの修正は難しいが、夫婦関係であれば修復という可能性がある。破綻を防ぐためにも夫婦は仲良くありたいものだ。

返せなくなったら、すぐに専門家に相談を

家を売るくらいなら死んだほうがと考える人もいらっしゃるそうだが、いくら大事な家とはいえ、命には代えられないはずだ家を売るくらいなら死んだほうがと考える人もいらっしゃるそうだが、いくら大事な家とはいえ、命には代えられないはずだ

では、老後破綻を防ぐためにはどうすれば良いか。まず、すでに返済が大変になってきている人であれば、早めに専門家に相談をすること。「金融機関にもよりますが、滞納が6カ月を越えると、そもそも相談にも乗ってもらえなくなり、事故扱いに。そうなると競売にかけられることになり、自分ではどうしようもなくなります。その前に金融機関や任意売却などに詳しい専門家に相談すれば、できるだけ傷の浅い解決方法が探れます。最近では任意売却で投資家に買ってもらって住み続け、お金ができたら買い戻すやり方など、場合によっては愛着のある家に戻る手もあります」。

ただし、安易に返済期間を伸ばすやり方は危険。「都銀ではまずあり得ませんが、一部の地銀、信金などでは返済期間を伸ばしてくれ、なんとか返済してくださいというとりあえずの結論を示されることがあります。過去には90歳で完済という計画になっているなど、あきらかに問題を先送りにしただけというケースも。リスケジュールすることで返せるあてがあるなら別ですが、遅くなればなるほど破綻のショックは大きくなります。まだ、人生を楽しむ体力、気力が残っているうちに返済の苦しみから逃れる手を考え、残りの人生を家はなくても豊かに暮らしたほうが良いのではないでしょうか」。

借りる前にも専門家に相談。長い返済を考えれば相談料など知れたもの

一人で悩むより早めに専門家の知恵を借りることを考えよう。知識があれば破綻を防ぐこともできるのだ一人で悩むより早めに専門家の知恵を借りることを考えよう。知識があれば破綻を防ぐこともできるのだ

これから家を買う、ローンを組むのであれば事前にファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するのが賢明と高橋さん。「今、失敗している人たちはそうした相談先がない時代にローンを借りた人たち。今は相談先もいろいろ選べる良い時代。利用しない手はありません。相談したことで数百万円の節約につながる、破綻を防げると考えれば、相談料などたかが知れています。ただし、その際には中立な立場の専門家にお金を払って相談することが大事。ただで相談できる場合には、誰かの意図に知らず知らず乗せられることにならないか、冷静に判断する必要があります」。

もちろん、余裕をもった資金計画を立てることも大事。「頭金ゼロのフルローンは危険。破綻の可能性が高くなります。といっても、貯蓄を全額頭金に充てるのも怖いので、そのあたりも専門家にアドバイスを受けると良いですね。過大な返済にならないよう物件選びも大事。特に新築にはこだわりすぎないことです」。

もうひとつ、住宅ローン返済が難しくなっても、もうダメだと思い込まないこと。「会社を経営していた59歳のキャリアウーマンで年々仕事が減少、交通費にすら困るほどに追い詰められて相談にいらした例がありました。食べるものも食べられず、痩せこけて髪はぼさぼさ、目の下には隈、相談してダメだったら死ぬしかないと思い詰めていらっしゃるような状態でした。結局、自己破産することにはなりましたが、命は落とさずには済んだのはもちろん、その後、結婚して現在はとても幸せそう。家を手放すくらいなら死んだほうがましとおっしゃる方もいらっしゃいますが、完済しなければ我が家ではありません。そこまでこだわらず、考え方を切り替えれば、必ず、道はあるはずです」。